〜キリンの惑星〜

    独断と偏見から解説する小野不由美の傑作ファンタジー「十二国記」
    
★「十二国記」作・小野不由美/中国をモチーフにした架空世界を
      舞台に、麒麟(キリン)という天意を司る神獣のもとに、12の
      国の興亡を描く、屈指の名ファンタジー。
      第1部「月の影 影の海」第2部「風の海 迷宮の岸」他

「十二国記」の世界は、「虚海(きょかい)」と呼ばれる海のような何もない空間に取り巻かれた平坦な空間である。
おそらく次元と次元の狭間に生じた穴のようなものだろう。

普通の人間は次元を超えることができない。
ただし例外もあって、「虚海(きょかい)」には時折嵐のような変動が起きて
次元と次元が交差する時がある。これを「蝕(しょく)」という。

「蝕」の時のみ、対峙している別世界=「蓬莱(ほうらい)」から人が流されてくる。たいがい人間は次元を超えるショックに耐えきれずに死んでしまうのだが、希に生存している。これを「海客(かいきゃく)」といい、別次元から来た異人種として、時に殺害するような地域もあるが、たいてい現地人として暮らしている。

逆に十二国記の世界から、「蓬莱(ほうらい)」=地球に流されるケースもある。
胎児の状態で異次元に転移したものは、うまいぐあいに人間の子宮に宿り、人間の遺伝子と交わって誕生する。

さて、この世界を支配しているのは「キリン」という種族である。
キリンは自由に次元を行き来できる。遠い昔、次元を放浪していてこの世界を発見したのかもしれない。キリンが先が人間が先か不明であるが、仮に先に人間がいたとしたら、おそらく次元嵐=「蝕(しょく)」によって流されてきた人間の子孫であろう。
ただし、十二国記の世界から次元を超えて行ける場所は地球上でもなぜか日本と限られている。つまり別次元=「蓬莱(ほうらい)」とは、イコール日本のことである。従って十二国記の民は日本人の子孫ということになる。

しかし文化は日本というより中国に近いので、大量に中国から渡来人が来た時期に
流されてきた渡来人の子孫かもしれない。純然たる農耕民族である。

              

キリンは人間を十二の群れに分け、それぞれを独立した国とした。
キリンは人間の安定した状態を非常に好む。おそらく人間の安定した精神エネルギーでも摂取しているのだろうと思われる。逆に人間の不安定な精神状態や血液を非常に嫌う。従って人間を殺さねばならない時は、テレパシーによって手なずけた「妖魔(ようま)」なるモンスターを使って殺させる。
そうしたテレパシー能力は、生まれつき備わっているという。
これらのモンスターは、キリンが死んだ場合に、その屍を食ってもいいという条件
で雇われている。しかしキリンはほとんど死なないので、たいていは都合のいい
「ただ働き」である。この世界には労働基準法は存在しないのだ。

十二国記の世界にいるキリンの数は12頭。おそらくそれが、その世界で生存できるキリンの上限数なのである。
かれらは無性生殖である。樹木に似た金属製の孵卵器=「捨身木(しゃしんぼく)」なる物から発生する。ただし発生するのは、前述した通り、12頭いるはずのキリン
が、何らかの事情で死んで欠員ができた場合に限られる。
基本的にキリンは死ぬことはない。

キリンは、人間のうち、もっとも波長の合う者を本能的に察知して選び出すと
一国の王に指名する。従って「王を選ぶ者」と呼ばれる。
別にその人間に指導力があるからではない。
向き・不向きは関係ない。当然向かない人間もいるわけで、選ばれた方はいい迷惑である。が、キリンは勝手に選んで、「あなたの下僕になります」などと甘い言葉を囁いて、一生くっついて離れないのである。

「王」の中にはそんなキリンに復讐すべく、わざとこき使ったり、むやみと不安定な精神状態になって、キリンを破滅に追い込む者もいる。
なぜなら不安定な精神エネルギーを摂取すると、キリンは衰弱死するからだ。
ただし、「王」の方もキリンに寄生されることで、遺伝子の老化を防いでもらっているため、何百年も生存が可能である。だからキリンが死ぬと、当然遺伝子は急速に
老化し、間もなく死んでしまう。いわば「共倒れ」である。
ただし、「王」が死んでもキリンが死ぬことはない。

従って逆に、「王」を死に至らしめるキリンも存在する。
特にひどいのはケイキというキリンである。ケイキは気の弱い少女を一方的に
「王」に選んだあげく、その少女を精神的に追いつめ、ついには自殺させてしまう。
ケイキはそのとたんに元気になり、次なる獲物=「王」を選び出かけるのである。

十二国記の人間の繁殖法もまた変わっている。なぜか男女の交接による繁殖
ではなく、キリンと同じ樹木型の孵卵器から発生する。
しかし本来は交接によって繁殖していたことは、売春宿などの存在からうかがい知る事ができる。なぜなら元々無性生殖ならば、男女がいるはずがないし、当然生殖の真似事を行って金銭を受け取る売春行為も必要ないからだ。
ではなぜ無性生殖になったのか。おそらく交接行為は、キリンに何らかの悪影響を及ぼすためだろう。

さて次元嵐=「蝕(しょく)」によって別次元=「蓬莱(ほうらい)」に流されてしまった孵卵器の胎児は、子宮の中に転移して、地球人として誕生する。
が、そうして誕生した人間の中に最も波長の合う者がいれば、キリンはこれを王に選ぶべく、次元を超えてやって来る。
そして相手が泣き叫ぼうが抵抗しようが、強引に連れ帰ってしまうのである。
ほとんど北朝鮮並みの強引さだ。

主人公の陽子は、胎児の頃に地球に漂着して、普通の女子高生として生きていたが、ある日ケイキというキリンに拉致されてやってきた。
ところがケイキはキリン同士の内紛に巻き込まれ、身勝手にも陽子を放置してしまい、そのおかげで陽子はさんざんな目に遭うのであった。

さいわい陽子は、ネズミの遺伝子と人間の遺伝子を交配して作られたらしい
「楽俊(らくしゅん)」なるネズミ人間に助けられ、どうにか生き延びる。
そして逆に、ぶざまな姿で捕らわれていたケイキを救出してやるのであった。

ちなみにケイキの選んだ王は、「ケイキの王」ということで、自動的に「ケイ王」と呼ばれることになる。しかし愚かな大衆は、逆に「ケイ王に寄生しているキリン」だから、「ケイ王のキリン」すなわち「ケイキ」なのだ、と考えているらしい。

キリンは人間を支配しやすいように、普段は人間に似た姿をしているが、本来は一角獣に似た獣である。ちなみにケイキは美しい若い男の外見をしている。そのためたまたま選ばれた王が♀だった場合、ケイキを人間の♂と思いこむ誤解が生じ、結果として王は精神が不安定となり、共倒れ現象を起こす。ただし主人公の陽子は例外で、ケイキの外見を「すっごく変」だと思ったらしい。

ところで、キリンが人間を王に選ぶのは「天意」だという。
この「天意」とは、おそらく太古の昔キリン種族がその世界にもたらした
「環境維持システム」の事ではなかろうか。

まあ、そんなこんなで、身勝手なキリンが支配する十二国記は、しっかりしたプロットと魅惑的な矛盾に満ちた、独創的かつ非常に優れたファンタジーである。
ただし、この解説を読んで読みたくなくなった、意味不明で頭が混乱した等々、筆者
には責任持てない。すべては筆者の「十二国記」への愛のなせる妄想である。

            

            

 

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